FIAT 500ベースの大人気車ABARTH(アバルト) 595。
この595には大きく分けて3つのグレードが存在します。
それぞれ販売価格なども違うわけですが、
それ以上にキャラクターが違うという一面があります。
今回はそれを理解せず購入してしまい、買い直すことになってしまった実例をご紹介します。
ABARTH 595というクルマ
ABARTH 595というクルマはFIAT 500をベースにABARTH(アバルト)がチューンしたクルマです。
普通のFIAT 500をかわいらしいイタリアの小型車とするなら、
アバルトはヤンチャな暴れん坊といったイメージでしょうか。
FIAT 500とはまったく違うファン層を持ち、同じ(ような)形のクルマながら、
走りもキャラクターも何もかもが違うクルマとなっています。
そんなABARTH 595には次のようなグレードが存在します。
ABARTH 595(一般にベースグレードと呼ばれています)
ABARTH 595 Turismo(ツーリズモ)
ABARTH 595 Competizione(コンペティツィオーネ)
一般的な感覚だと下級グレードと中級グレード、そして上級グレードと思ってしまいますが、
このクルマに関してはちょっと違います。
確かに販売価格に差はありますが、価格の問題ではなくクルマの性格そのものが違います。
ABARTHとの出会い
クルマ好きのS氏は美容室を経営する40代既婚男性で、
普段はお気に入りのレクサスIS350で快適なカーライフを送っていました。
このS氏は普段乗りのレクサス以外にBMWのZ4を所有しており、
休日は奥様とドライブに出かけるのがお約束でした。
そんな休日のある日、たまたま立ち寄った欧州車専門店でABARTH 595という過激なクルマに出会ってしまいます。
カーマニアであったS氏はもちろんアバルトのことは知ってましたが、
間近で実車に触れたのはそのときが初めてでした。
その店には三台のABARTH 595が展示されており、
眺めているうちに我慢できなくなって試乗可能な一台に飛び乗ってしまいます。
アバルト病に罹った瞬間でした。
よく調べずに上級グレードを買ってしまった
発病してしまったS氏の行動は迅速でした。
奥様の許可を得たこともあり、その日からアバルト探しを始めています。
そしてすぐにカッコいいイエローのコンペティツィオーネを発見!
このコンペティツィオーネは595最上位グレードのモデルで、
多少高い買い物にはなったものの、
運命の出会いと感じて即決してしまいました。
お店がZ4の下取りをがんばってくれたことや、
人気車ゆえに迷っていると売れてしまうという現実的な問題もありました。
もちろん高い買い物なので試乗してクルマに問題のないことは確認しています。
初試乗から約一か月後には愛車にしてしまうという早業でした。
S氏のガレージにやって来たのは2015年式ABARTH 595コンペティツィオーネで、
走行距離は約28,000Km、乗り出し310万円ほどのクルマだったそうです。
快調なABARTH 595 Competizioneに大満足するが…
S氏の買った595コンペティツィオーネは約2.8万km走った中古車ですが、
そうは思えないくらい内外装とも綺麗なクルマで、
もちろんエンジン、ミッションも快調そのものでした。
そんなご機嫌なクルマだったので大満足してたことは間違いないのですが、
ちょっとクルマが元気すぎて戸惑うこともあったようです。
595コンペティツィオーネはまるでかっとびレーサーのようなクルマだったのです。
そんなある日、買い物のため奥様と出かけていたS氏はお店の駐車場で別の595を発見します。
アバルトオーナーあるあるの行動ですが、
S氏はその595の横に自分のクルマを駐車して記念撮影を始めました。
その595は純白の車体にところどころ赤のアクセントを施したセンスのいいクルマで、
S氏も奥様も「カッコかわいいね」と盛り上がっていました。
ただ、その595はなんというかちょっと自分の595よりどこか上品な感じで、
確かに同じアバルトのエンブレムを着けてはいるものの、
なせかS氏の595とは違って見えるクルマでした。
そう、そのクルマはS氏のクルマとはグレードの違う595ツーリズモというクルマだったのです。
ABARTH 595 Turismoというクルマ
ツーリズモというグレードは595の中では一番ラグジュアリーなクルマといえます。
シリーズで唯一豪華な本革製シートを採用していることや、
マニュアルトランスミッションの設定がなく、
MTAと呼ばれるATモード付5速シーケンシャルミッションしか選べないところなど、
コンペティツィオーネとは少々位置づけや性格の違うクルマでした。
実はS氏もクルマ探しをしていたときにツーリズモの実車は見ています。
しかし、そのクルマは前オーナーの好みだったのか、
ボンネットにアバルトのサソリマークが描かれ、
やや派手めな社外製エアロパーツを身にまとったカスタム車でした。
おまけにレコードモンツァのオプションマフラーも装備していたため、
コンペティツィオーネとの違いがわかりにくい仕様のクルマでした。
本来のツーリズモらしい姿のクルマではなかったのです。
頭から離れない595ツーリズモの清楚な姿
その日以来、S氏の頭からツーリズモというグレードが離れなくなってしまいました。
コンペティツィオーネが悪いわけではないのですが、
やはりコンペティツィオーネはその名の通りスポーツ走行最優先のモデルであり、
奥様とゆったりドライブに出かけることが多いS氏にとっては、
ツーリズモのほうがしっくり来るグレードであったことは確かでした。
一度そう思ってしまうとコンペティツィオーネのハードな仕様に疲れてしまいます。
シート一つとってもコンペティツィオーネは本格的なスポーツシートです。
(そのままサーキット走行にも使えるようなサベルト製スポーツシートを装備しています。)
完全にラグジュアリー感あるツーリズモこそ自分の求める理想形だと気づいてしまったのです。
もうこうなると心の中で毎日葛藤が始まります。
S氏が考えたのは自分の愛車をもっとラグジュアリーな方向にカスタマイズすることでしたが、
それにはたくさんのお金が必要です。
でも問題だったのはお金がかかることではなく、
そんなカスマタイズはコンペティツィオーネの魅力を自ら削ぎ落す行為に等しく、
本末転倒なことになってしまいます。
その段階でS氏は初めて595ベースグレードの存在意義を知ることになります。
ABARTH 595というクルマは極めて趣味性の高いクルマで、
ノーマルで乗っている人は少なく、多くのオーナーがドレスアップやカスタマイズをしています。
自分好みのクルマに仕上げたい人はこのベースグレードを選び、
中には100万円以上の費用をかけて自分だけの595を作っています。
単なる低グレード車ではないのです。
ということはツーリズモも単なる中級グレードのクルマではないことになります。
595はS氏が乗っていたレクサスやBMWとは根本的にグレード展開の違うクルマでした。
決断!コンペティツィオーネとの別れ
S氏はとうとう一つの決断をします。
クルマの買い替えです。
我ながらバカなことをしているとは思ったようですが、
そんな気持ちでコンペティツィオーネに乗り続けるほうがクルマに対しても失礼です。
イエローのコンペティツィオーネは総額310万円ほどで購入してますが、
たった4ヵ月で手放すことになってしまいました。
幸いだったのはイエローのコンペティツィオーネが人気車で下取りが高かったことと、
すぐに次のオーナーとなる人が現れたことでしょうか。
そして…
S氏の元には入れ替わりでレッドの2017年式595ツーリズモが納車されました。
そのクルマはまったく手を入れられていない正規ディーラー認定中古車で、
走行距離は約11,000Km、色はイタリア車らしいレッドでした。
赤色は奥様の強い希望だったそうです。
しっかりクルマ選びをしていれば防げたミス
S氏の失敗はABARTH 595というクルマの本質を知らずにグレード選びをしてしまったことに尽きます。
レクサスやBMWは上位互換のあるグレード展開が多く、
アバルトというクルマもそれと一緒だと考えてしまったことが致命的な誤りでした。
この失敗は落ち着いてクルマ選びをしていれば避けられたものです。
舞い上がって買ってしまった結果、求めるグレードと違うクルマを買ってしまいました。
この失敗の代償は追い金60万円というカタチでS氏を襲いますが、
せめてもの救いは粗悪なクルマを掴まされなかったということでしょうか。
あれから4年、現在もS氏はその赤いABARTH 595ツーリズモを所有し、
奥様と健やかな日々を過ごしています。
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