フィアット社はガソリンエンジン車の生産を終了して本格的にEV化へと向かいますが、
今回はあらためてガソリンエンジンモデルの「TwinAir」と「1.2」を比較してみます。
この両モデルにはそれぞれの特徴があるわけですが、一体どんな違いがあるんでしょうか?
FIAT 500のガソリンエンジンモデル
フィアット社の人気モデル「三代目500」ですが、とうとうガソリンエンジン車の生産を終えて、
今後はEVモデル一本へとラインナップが変更されます。
残念ですがとうとうこの日が来てしまいました。
ただ生産は終了するものの、もうガソリンエンジン車に乗れなくなったわけではありません。
まだなんとか新車も手に入りますし、中古車なら膨大な数が市場に溢れています。
これらガソリン車をこれから購入しようと考えている人だってたくさんいるはずです。
そんなFIAT 500には0.9Lの2気筒ターボエンジンを積んだ「TwinAir」と、
直列4気筒1.2Lエンジンを積んだ「1.2 8V」の二種類が存在します。
(過去には直列4気筒1.4Lエンジンを積んだ「1.4」もありました。)
今回はこの二つのモデルのメリットとデメリット、そしてクルマとしての特徴を整理してみます。
以前、現行モデルのTwinAirと1.2の特徴を比較してますが、
今回は過去モデルも含めてそれぞれのエンジン搭載車を比較してみようと思います。
まずはツインエアのほうが良さげな点はどんなところでしょうか?
ツインエアのほうが良さそうな点
個性がある
ツインエアエンジンは他に似たエンジンがないことからとにかく個性豊かです。
クルマの見た目に関してはTwinAirも1.2も大きな違いはなく、
FIAT 500としてのかわいらしさは同等です。
ただ、1.2Lエンジンが至ってノーマルなエンジンフィールであるのに対し、
ツインエアエンジンはかなり独特な音や振動のあるエンジンです。
このエンジンだからこそあのスタイルを引き立てていると考えるファンもいます。
このエンジンを楽しめるのがTwinAir最大のメリットで、
これを1.2や(かつて存在した)1.4で体験することはできません。
余談ながら前期・中期型と後期型でツインエアエンジンの音が微妙に異なります。
シリーズ4から搭載された後期型エンジンのほうが高音のガチャガチャした音が減っています。
全般にやかましいツインエアエンジンですが、後期型はやや静かになった印象です。
また、デュアロジックの変速速度なども若干ながら速くなっています。
前期型・中期型(初期)のエンジンカバー
中期型(末期)・後期型のエンジンカバー
パワーがある
ツインエアエンジンは排気量こそ1.2より小さいですが、
ターボエンジンということもあって誰でも実感できるほど1.2よりパワーがあります。
結果としてTwinAirのほうが交通の流れに乗りやすくて走りやすいです。
私はTwinAirを所有してますが、たまに1.2に乗ると正直「遅い」と感じてしまいます。
とくに発進直後のスピードの乗りが悪いです。
流れの速い一級国道の交差点で先頭から発進する…なんて状況になったとします。
こんなときは1.2だとかなりアクセルを踏み込まないと流れを作るのが難しく、
後続車から無言のプレッシャーを受けやすい印象です。
(決して1.2が交通の邪魔になるという意味ではありません。)
自動車税が安い
春になると自動車所有者は税金を納めないといけないわけですが、
ここでTwinAirと1.2では差が出ます。
グレード | 自動車税 |
---|---|
TwinAir | 29,500円 |
1.2 | 34,500円 |
たかが5,000円の違いですが、いざ払う段階になると痛いものですね。
クルマはそれでなくとも保険代などもかかっているので、数千円でも安いと助かるものです。
フロントが軽くて回頭性が良い
これはエンジンが小さく軽量なTwinAirの大きなメリットです。
TwinAirは1.2より小気味良いハンドリングを持ってますが、
これはフロントが軽いからです。
私は元ABARTH 500&595のオーナーでもありますが、
このTwinAirの小気味良さはアバルトモデルにもない独特なものです。
この小気味良さを味わえるのもTwinAirだけで、
エンジンの重い1.2や(かつて存在した)1.4では真似できないものです。
当然ながらブレーキフィールもノーズの軽いTwinAirのほうが良好です。
燃費が良い(30%高効率らしい)
ツインエアエンジン最大のメリットは燃費の良さかも知れません。
メーカー発表ではツインエアエンジンのほうが約30%くらい燃焼効率が良いそうですが、
実際の燃費でもTwinAirと1.2では差が生じます。
私はかつて自分のTwinAirと友人の1.2で燃費検証したことがありますが、
そのときの燃費データは以下のような数字となりました。
すべてカタログ値には及んでませんが、大きく乖離もしていない印象です。
グレード | 一般道路 | 高速道路 | WLTCモード (カタログ値) |
---|---|---|---|
TwinAir | 13.8km/L | 21.3km/L | 19.2km |
1.2 | 12.9km/L | 17.8km/L | 18.0km |
1.2は延べ約5,650Kmの燃費記録からの平均値です。
参考用のWLTCモードカタログ値は最終型モデルより。
また、上記とは別に約285kmの距離を並走して燃費計測したときのデータは以下になります。
ともに燃料を満タンにして同区間を走って計測しています。
グレード | 往復約285km走行 (一般道約50km、高速道約235km) |
---|---|
TwinAir | 18.9km/L |
1.2 | 15.8km/L |
ツインエアエンジンにはECOモードというのがありますが、
上記のデータはすべてECOモードオフの状態です。
「30%高効率」まではいってませんが、約20%くらいは良かったようです。
タイミングベルト交換不要
タイミングベルト交換はフィアットエンジン固有の問題ではありませんが、
1.2のエンジンにはタイミングベルト交換という整備が必要です。
しかしツインエアエンジンはチェーン駆動なのでこれがありません。
中古車で購入するとタイミングベルトの寿命を考えないといけない1.2は何かと心配です。
余談ながら三代目500が登場したとき正規ディーラーは2万kmくらいで交換推奨してました。
これはディーラーもイタリア車の工作精度を信用してなかったからと言われてますが、
今でも平均的な国産車よりは短命と考えられています。
一応メーカーは「12万kmまたは3年」と謳ってますが、
これは巡行走行の多いヨーロッパでの使用を想定したものと言われており、
日本の道路環境下においては、この基準の適用は厳しいと考えている整備士が多いようです。
(後に日本では6年または6万kmで交換推奨とメーカーから案内されました。)
なお、私がお世話になってる元正規ディーラー整備士は5万kmくらいで交換を推奨してますが、
これはやや安全マージンを考えての「推奨」だそうで、
実際には(経験的に)8万kmくらいで交換していればまず問題はないようです。
実はコストパフォーマンスが良い
TwinAirは新車も中古車も1.2より高値です。
新車だと同装備のクルマ同士でも約25万円くらい高くなります。
そのため新車購入される方は1.2を選ぶ方が多いようですが、
長く乗るとなるとほぼ確実にTwinAirのほうが逆転してお得になります。
それは燃費の差であったり、タイミングベルト交換の有無であったり、
売却するときの査定額の差などから逆転してしまうことが多いです。
もちろんクルマの状態なども関係するので絶対に売却額で有利とは言えませんが、
平均的に乗られたクルマ同士で比較すると逆転傾向にあることは間違いなさそうです。
新車でも中古車でも長く乗られるならTwinAirを選んだほうがお得だと思います。
売却時に有利
上のコストパフォーマンスと密接に関係がありますが、
一般的にFIAT 500の売却は1.2よりTwinAirのほうが値がつきやすく有利です。
それは中古車としてTwinAirのほうが人気があり、中古車店も欲しがるからです。
総じて装備が良い
これは少し解説が必要です。
もともとFIAT 500はエンジンとボディのグレードは別物でした。
それぞれのエンジンに上級グレードと標準グレードが用意され、
予算に合わせて選択できるようになっていたものです。
しかし最近の日本仕様ではグレードの構成やラインナップが変更され、
TwinAirはグレードを選択できるけど1.2は標準グレードのみとなっているなど、
昔と比べると少々選択肢が狭められたグレード展開となっていました。
昔は「1.2 Lounge」のようなグレードも存在しましたが、
ここ最近はそれに相当するグレードは販売されてません。
そんな事情もあって、市場にあるTwinAirは上級グレードモデルが多く、
総じて1.2より装備に優れた個体が多いです。
1.2のほうが良さそうな点
振動が穏やか
1.2が搭載している直列4気筒エンジンは特別スムーズなエンジンではありませんが、
2気筒のツインエアエンジンと比べたら比較にならないくらい穏やかで滑らかなエンジンです。
例えが悪いかも知れませんが、ツインエアは耕運機に乗ってるような振動がありますが、
1.2にはそんな無粋な振動はありません。
この「普通に乗れる」感こそ1.2を選ぶ最大のメリットかも知れません。
とくに女性は1.2の走行感覚を好む傾向にあるようです。
走行音が静か
1.2のエンジンは擬音にするなら「ブーン」という普通の音を発するエンジンです。
どこでも走っている小型車そのものの走行音と言えます。
エンジン音よりタイヤのロードノイズのほうが気になる人もいますね。
女性だとツインエアの「バンバン」というバイクみたいな音は耳障りに感じる人もいますし、
中には静かな1.2に乗ると「これが同じ500?」って新鮮な感動を覚える人もいるくらいです。
フィアット未経験な整備工場でもイケそう
これは1.2の大きなメリットになるかも知れません。
1.2が搭載している直列4気筒エンジンは奇抜なエンジンではないので、
フィアットに触ったことがない整備士でも整備しやすいです。
初見だとしてもこれまでの経験と感覚で触れる整備士が多いですね。
(このエンジンは超ロングセラーエンジンなので初見という整備士さんは少ないかも?)
個性豊かなツインエアエンジンはちょっとしたクセがあります。
例えばツインエアエンジンは寒くなるとノッキングの症状が出ることがありますが、
これはなぜか2番シリンダーから発することが多いです。
こういうことを知っているかどうかでも整備の精度に影響します。
1.2の直4エンジンのほうがそういう特殊性は少ないと言えます。
購入時の初期費用が安い
1.2は単純に購入費用がリーズナブルです。
長期間乗るとなるとTwinAirのほうがお得になる傾向はありますが、
とりあえず購入時に用意が必要な初期費用は確実に1.2のほうが安いです。
クルマを買うときはどうしてもランニングコストより初期費用に目が行くので、
ツインエアエンジンに拘りがなければ自然と1.2のほうに目が向くものです。
修理・整備費用が抑えやすい
FIAT 500のウィークポイントはデュアロジックと言っても過言ではないので、
そういう意味ではTwinAirも1.2も修理費や整備費は大差ないと言えますが、
それを除くとやはり整備費用の点では1.2のほうが有利かも知れません。
ちょっとした消耗パーツなども1.2のほうが安価なものが多いですし、
加飾処理の多いTwinAirの外装パーツは確実に1.2より高価です。
こういうのが積もり積もって最終的な修理・整備コストに影響します。
(例外もあって、なぜか1.2のほうが数倍高いパーツもあります。)
また、TwinAirはフィアットを扱う外車整備工場へ入庫するケースが多いでしょうが、
1.2はイタリア車を専門に扱うような整備工場じゃなくても、
標準的な工賃で作業してくれる街の整備工場に受け入れてもらいやすいです。
現在は昔みたいに国産車を扱う整備工場は工賃が安く、
外車の整備工場は高いなんてことは少なくなってますが、
それでもやはり外車専門の整備工場のほうが工賃が高めなことが多いです。
その理由は専用工具や専用の整備機器を導入しなければならないこともあって、
どうしても整備工場自体の運用・稼働コストが高くなってしまうからです。
整備工場も設備投資したら回収しなければ事業として成り立ちません。
これは仕方ないですよね。
「1.2」はシリーズ3とシリーズ4で一部重要パーツの仕様が異なります。
例えばフロントのディスクブレーキキャリパーなども異なっています。
一般にパーツが安いのはシリーズ3の「1.2 POP」などで、
シリーズ4になるとTwinAirとパーツ共有が進んで差が少なくなっています。
エンジン故障が少ない
「1.2」が搭載しているエンジンは通称 fire(ファイア)エンジンと呼ばれています。
実はかなり古いエンジンで、大昔はY10などに搭載されてましたし、
その後は長く141系のPandaに搭載されていたので古いファンには馴染みのエンジンですね。
その古いエンジンが近代化改修されて現在も1.2に搭載されています。
まさに歴史と伝統あるイタリアのエンジンですね。
そして、このエンジン最大の特徴はなんといっても壊れ難さで、
エンジン内部の故障で修理したという方はかなり少ないんじゃないでしょうか?
現在のfire(ファイア)エンジンはマルチポイントインジェクターとなっており、
大昔のキャブレター時代と比べると燃料関係のメカがやや複雑になってますが、
それでも基本部分の信頼性は極めて高いエンジンとなっています。
さらにアクセルを踏んでみるとわかりますが、とにかく気持ち良く回るエンジンで、
あの快感はターボエンジンであるツインエアエンジンの比ではありません。
なんとなく「エンジンならTwinAir一択」みたいな言われ方が多いですが、
このfire(ファイア)エンジンが好きで1.2に乗っている人だっています。
決してTwinAirが買えない人のために用意されている安いエンジンではないのです。
TwinAirと1.2の動力性能比較
走行感覚というのは実際にクルマに乗らないと体感できないものですが、
簡易的にGPS速度計で計測したデータをご紹介します。
少しでも加速感の参考になれば幸いです。
GPS速度計での簡易計測加速データ
計測に使った機器は市販のGPS速度計なのでその精度は不明ですが、
一般にクルマの速度計よりは正確だと言われています。
なお、0~100kmのデータはサーキット走行会でいただいたGPSデータから抜粋しており、
これは意識して計測していないため参考までにお願いします。
計測 | TwinAir | TwinAir (ECOモード) | 1.2 8V |
---|---|---|---|
0~60km | 4.91秒 | 5.79秒 | 5.82秒 |
40~80km | 6.18秒 | 7.05秒 | 7.03秒 |
0~100km (参考データ) | 11.01秒 | ― | 13.88秒 |
ちなみにTwinAirのECOモードオンと1.2の動力性能が同等くらいじゃないかと思います。
TwinAirはECOモードのオンとオフではっきり体感できるほど変わります。
TwinAirも決して速くはないですが、普通の小型車くらいの性能は持っています。
1.2の加速性能は軽自動車と同じくらいでしょうか…
おすすめモデルは?
ではTwinAirと1.2ではどちらがおすすめなんでしょうか?
これは完全に個人の好みの問題なので断定は困難ですし、
少なくともクルマとしてはそれぞれに持ち味があります。
それでも強いてどちらかを挙げるならば、私は以下の理由からTwinAirをおすすめします。
主観ながらTwinAirのほうが乗って楽しい
TwinAirのほうが安全かも?
TwinAirのほうが資産になる
TwinAirのほうがバリエーション豊富
現実的な維持費は大差ない
走りが快適なのは?
もし走行性能より、あのカタチが重要ならばどちらでもいいと思いますが、
多少なりとも速さや走りやすさを求めるならTwinAirのほうに分があります。
高速道路の合流や追い越しなどもTwinAirのほうが容易く、
1.2は加速というかスピードの伸びが悪いので時間を要します。
素早く追い越しを完了して元の車線に戻れるクルマのほうが走りやすくて快適なものです。
決して1.2が危険なくらい動きの鈍いクルマと言うわけではありませんが、
少なくともTwinAirを体験してしまうと1.2のスピードはキツイです。
多くのプロドライバーが「パワーのあるクルマのほうが安全」と語ってますが、
これは軽快に動けるクルマのほうが緊急時の回避行動などがしやすいからだそうです。
一般人とプロでは運転技術が異なりますが、通じるものはありそうです。
中古車の選択肢が多いのは?
中古車で買う場合はTwinAirのほうが選択肢が多いかも知れません。
中古車の台数が多いという話しではなく、これまでに販売されたバリエーションが豊富なんです。
とくに限定カラーや特別カラーのクルマはTwinAirのほうが多いので、
色や装備で中古車選びをすると結果的にTwinAirを選んでしまうケースは多いです。
あとがき
今回はFIAT 500の「TwinAir」と「1.2」を比較してみました。
どちらを選んでも「フィアットの世界」を楽しませてくれることは間違いないですが、
現実問題として毎日乗るクルマとして考えたときは「いくらで買える?」とか、
「うるさくないか?」とか、「乗り心地は…」などという要素も考えてしまいます。
私自身は総合的に考えてTwinAirを推奨しますが、これは一つの意見に過ぎません。
「1.2」オーナーの中には「TwinAir」をマニアックなクルマと思っている人もいますし、
逆に「TwinAir」オーナーの中には「1.2」を平凡なクルマと勘違いしてる人もいます。
実際はどちらも「おお、フィアットだ!」と感じることは間違いないので、
購入される方は必ず両方に試乗されることをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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